【中小企業・小規模事業者の後継者問題】

経営者の高齢化や後継者難を背景に、中小企業・小規模事業者の経営者は、いずれ経営者自身の引退と次世代へ会社を承継する場面に直面します。
中小企業・小規模事業者の中には、経営者の親族や役員・従業員への事業承継を検討される経営者もいれば、第三者への事業の譲渡・売却・統合(M&A)を検討される経営者もいます。その一方で、事業の継続性・成長性に問題はないものの、廃業を余儀なく選択せざるを得ない経営者も見受けられ、その数は増加傾向にあります。

【中小企業・小規模事業者の実態調査】

  1. 経営者の平均年齢について
    帝国データバンクの「全国社長年齢分析(2020年)」によると、2020年 1 月時点の全国約95万社を対象とした経営者の平均年齢は59.9歳(前年比+0.2 歳)で過去最高を更新しており、1990年(平成2年)から約30年の経過で、平均年齢54歳から約6歳も上昇し、右肩上がりで推移しています。また、年商1億円未満の企業が平均年齢61.1歳で最高となっており、年商1億円以上の企業との比較において、社長が高齢であることが分かりました。    
  2. 後継者不在状況について
    帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2020年)」、後継者の決定状況と事業承継動向(2018.10から2020.10までの 3 年間)の調査結果によると、約26万 6000 社(全国・全業種)の後継者不在状況は、全体の約65.1%に当たる約17万社において後継者が不在でした。3 年連続で数値は低下していますが、依然高水準で推移しており、3 社に 2 社の割合で後継者が不在となっています。さらに、事業承継の検討期に入る 50 代では 7 割程度、60代では約半数、70代では約 4 割、80代では約 3 割で後継者が不在となっており、経営者が高齢になっても、後継者が不在になっている企業が多く存在することが分かっています。
  3. 後継者難を理由とする廃業
    日本政策金融公庫によると、60歳以上の経営者のうち、50%超が将来的な廃業を予定しており、このうち「後継者難」を理由とする廃業が、全体の約 3 割に迫ることを報告しています。
  4. 後継者の決定状況
    日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査結果(2019年調査)」によると、中小企業の事業承継の見通しは、後継者が決まっており後継者本人も承諾している「決定企業」は12.5%に留まり、後継者が決まっていない「未定企業」が22.0%、「廃業予定企業」が52.6%、「時期尚早企業」が12.9%となっています。
    また、「廃業予定企業」は「1~4人」では66.9%を占めているものの、「5~9人」では34.9%、「10~19人」では17.6%と、規模が大きくなるほど割合が低下していることが分かりました。
  5. 廃業理由と事業譲渡の検討
    日本政策金融公庫総合研究所の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査結果(2019年調査)」によると、「廃業予定企業」に廃業理由について尋ねたところ、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」が43.2%と最も高い割合となっています。一方、「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」を合わせた後継者難による廃業は、29.0%と高水準となっています。
    また、日本政策金融公庫総合研究所の「引退廃業者の実態(経営者の引退と廃業に関するアンケート結果」によると、経営者の引退・廃業時における事業譲渡の検討の有無をみると、「検討しなかった」が91.2%となっており、事業譲渡の検討を行うことなく、引退廃業していることを調査しています。
  6. 事業承継の問題認識と計画
    帝国データバンクが 2020年 8 月に実施した調査では、調査対象 1 万2,000社のうち約 7 割が「事業承継」を経営上の問題と認識しており、 約 4 割で事業承継の計画があることを報告しています。

【日本経済の基盤を脅かす後継者問題】

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、中小企業・小規模事業者の廃業が急増しており、現状を放置すれば2025年までの累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があることを指摘しています。この状況による地域経済の衰退や雇用喪失への影響は甚大であることから、後継者問題は喫緊の課題として、国や県、地域金融機関などが中心となってプッシュ型の事業承継支援を積極的に推し進めています。

さらに、中小企業庁が 2017 年 7 月に事業承継支援を集中的に実施する「事業承継 5 ヶ年計画」の策定により、中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする目的で開始した「事業承継補助金」の運用など、円滑な事業承継に向けた積極的な支援が進んでいます。

【事業承継とM&A】

事業承継の類型として、親族内承継、役員・従業員承継、社外への承継(M&A)が挙げられます。また、事業承継においては、後継者教育などを進めながら経営権を引き継ぐ「人(経営)」の承継、自社株式・事業用資産、債権や債務など「資産」の承継、経営理念や取引先との人脈、技術・技能といった「知的資産」の承継を、計画的に着実に進める必要があります。

「事業承継」では後継候補の選定から育成、実際の就任までは中長期的かつ計画的な準備が必要となるため、経営余力のない中小企業・小規模事業者ほど、事業承継に対して経営資源を割きにくいのが実情です。そのため後継者への引き継ぎの準備が間に合わず、意図しない形で経営継続を断念するケースも見受けられます。
一方、企業価値を認めた第三者に経営を委ねる「M&A方式の事業承継」は事業価値に着目する事業性評価が承継先企業へ求められるものの、消費者ニーズの変化や競合の出現など、事業環境の変化が激しい中において、後継者問題を解決に導く有効な経営戦略として注目されています。

【企業価値算定】(バリュエーション)

「事業承継」により相続する場合の企業評価は、国税庁が使用している評価方式「財産評価基本通達」を適用することで一定の評価額を算出することが可能となり、算定方法によって企業価値が上下するという心配はありません。
 一方、M&Aにおいては、株式会社の場合は、株式譲渡(1. , 2.)といった手法で行われることが一般的ですが、事業の一部を引き継ぐ場合や個人事業者の場合は、事業譲渡(3. , 4.)で行われることが一般的で、合併や会社分割等の手法が取られることもあります。

  1. 会社の株式を他の会社に譲渡する方法(子会社化)
  2. 株式を他の個人に譲渡する方法
  3. 会社の事業の全部又は一部を他の会社に譲渡する方法
  4. 個人事業者の事業の全部又は一部を他の会社や個人事業者に譲渡する方法

M&Aにおける企業価値評価を計算する際は、以下のいずれかの手法を用いることになります。

  1. アセット(コスト)・アプローチ
    企業の純資産の時価評価額を基準として企業価値を計算する方法で、貸借対照表の価額を基準とする「簿価純資産法」や、時価評価を行った資産と負債の差額である「時価純資産法」、「時価純資産法」に営業権(のれん)を考慮した方法があります。
  2. マーケット・アプローチ
    上場としている類似企業を比較対象として企業価値を計算する方法で、「市場株価法」「類似会社比較法」があります。
  3. インカム・アプローチ
    将来的な収益価値を基準として企業価値を計算する方法で、「収益還元法」「DCF法」があります。

【企業価値算定(バリュエーション)】

中小企業や個人事業主は、新株発行や株式売買が頻繁に行われないこと、将来的な収益予測は困難であることより、マーケット・アプローチやインカム・アプローチによる評価方法は説得力に欠けるするため、貸借対照表の純資産額を基礎とするアセット(コスト)・アプローチが選好されやすいものと推察されます。
 M&Aで企業買収を行う際の企業価値評価は、対象企業についての定量的な価値(企業価値)を算定・評価するため、会社が保有する資産に基づいた評価額だけではなく、今後期待される収益や利益の見通し、いわゆる「のれん評価額」を算出する必要が出てきます。

【企業価値と不動産鑑定評価】

企業価値をアセット(コスト)・アプローチ(時価純資産法、時価純資産法に営業権を考慮した方法)で計算する場合には、帳簿上の資産・負債を時価に評価替えして、実体純資産を把握しますが、ここで算出される含み損益はM&Aにおける買収価格に影響を及ぼすのみならず、M&Aに伴う課税にも影響します。
事業承継の構成要素である「資産」の中でも、不動産に関しては、不動産時価がM&Aにおける企業価値評価に大きく影響を及ぼすことになり、不動産の時価評価が必要とされることが多くなります。また、企業会計基準により、被取得企業又は取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価(支払対価)となる財(不動産)の企業結合日における時価で算定することを求められます。以上のことから不動産の時価の算定に当たって、不動産鑑定評価を活用することは非常に有効な手段になります。

特に、企業が取得してから相当期間経過した不動産については、その取得後の経済情勢の変動その他種々の理由により、貸借対照表上の簿価と適正な評価を行って把握される時価との間に大きな差を生じており、多額の含み損益が発生している可能性があります。さらに、事業価値を上回る不動産価値が埋もれている可能性所有権以外の権利に対価が発生している可能性があり、不動産鑑定評価によって判明する場合もあります。したがって、不動産鑑定評価により、最有効使用(対象不動産の効用が最も発揮される最適用途)を前提とした適正な不動産の価値を把握することは、非常に有効になると思われます。また、M&A後の財務戦略や事業計画の策定に当たっても、市場価値(時価)を把握しておく効用は高く、M&A前に不動産鑑定評価を行い、適正な不動産価格を把握することをお勧めいたします。

【不動産コンサルティング】

弊社の不動産鑑定評価は、単なる価格や賃料を求めることに留まらず、不動産デューデリ的要素を含んでおり、M&A後の不測の損害に備えた不動産リスクを抽出して、総合的観点からの情報を提供致します。さらに、弊社の不動産コンサルティングにより、事業用不動産の把握・整理遊休不動産の把握・整理M&A後の事業効率策・有効活用提案売却価格の検討リースバック(賃貸借)の検討等、その先の戦略を見据えた支援をお約束致します。

※M&A・事業承継に関する各種支援については、弊社が提携する各専門家(公認会計士・税理士・司法書士等)を紹介させて頂くことも可能です。